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「氏名」、「姓名」、「名字」の不思議
手紙やはがきを送るとき、「住所と氏名を書いて」とはいいますが、「住所と姓名を書いて」とはあまりいいません。
夫婦なのに、別々の「名字」を名乗ることを「夫婦別姓」といいますが、「夫婦別氏」ともいいません。
「氏名」や「姓名」、それに「名字」、これらは何が違う?
「氏名」や「姓名」、それに「名字」、これらは何が違うのでしょうか?
「氏名」の「氏」とはなに?
「氏名」の「氏」は「うじ」と読み、本来は血筋を示すものでした。
「藤原」、「源」、「平」、「橘」などがその例です。
藤原氏は、大化の改新(645年)の功労者である中臣鎌足が、当時の天皇から藤原の氏を授けられたときから始まりました。
「氏」とは、もともとは天皇から授けられるものだったのです。
「姓名」の「姓」とはなに?
「姓」も、天皇から授けられるもので、家の格式を示すものでした。
「姓」と書いて「かばね」と読みます。
天武天皇が制定した「八色の姓」がこれに当たり、次の八つの姓がありました。
- 真人(まひと)
- 朝臣(あそん)
- 宿禰(すくね)
- 忌寸(いみき)
- 道師(みちのし)
- 臣(おみ)
- 連(むらじ)
- 稲置(いなぎ)
「名字」とはなに?
天皇から授けられた「氏」や「姓」に対し、「名字」とは、出身地などをもとに自分の家につけた名前です。
「田中」、「鈴木」、「山田」など日本人に多い「名字」を思い浮かべるとおわかりいただけるでしょう。
天皇から授けられた「氏」や「姓」と、自分でつけた「名字」は、古くは厳密に区別され、公式な場では「氏+姓+名」で呼ばれたといいます。
つまり、天皇から授けられた「氏」や「姓」は公式、自分でつけた「名字」は私的なものだったのです。
例えば、「徳川家康」は、公式文書では「氏」が「源」、「姓」が「朝臣」、「名」が「家康」、つまり「源朝臣家康」でした。
「徳川」という「名字」は私的なものなので、公式の場では用いられることはなかったのです。
また「名」には通称もあり、それが「二郎三郎」で、日常的には「徳川二郎三郎」と呼ばれていたといいます。
天皇や皇族に「名字」がないのはなぜ?
さて、そこで天皇や皇族の「名字」は何かを考えてみましょう。
こたえは「名字はありません」なのです。
「氏」も「姓」も天皇が授けるもので、「名字」は自分の家につけたものです。
このため、天皇が自分に「氏」や「姓」を与えることもなければ、自分の家に対して「名字」をつけることもしませんでした。
したがって、いまの皇室や皇族にも「名字」に当たるものはないのです。