さて、会社に入ってしばらくしてのことですが、この会社では英語力が必須であることを痛感しました。
当初は、海外向けプラントの仕事をする人にだけ英語力が必要だろうと思っていたのですが、そうではありませんでした。
国内向けプラントの仕事をする人にも、英語力が必要だったのです。
その理由を次に述べましょう。
米国から技術導入の歴史
太平洋戦争以前にも、全般的に日本の会社の技術は欧米の会社に比べ劣っていたのですが、終戦後その格差は戦争前に比べ格段に大きくなっていました。
戦後日本の多くの会社は、もはや自主技術開発では欧米の会社に追いつけないと判断し、最新技術を持っている欧米の会社、中でも米国の会社から技術を導入をすることに決めました。
私の会社も例に漏れず、その分野で一流の技術を有する米国の会社から当時の最新技術を導入しており、私が入社した時点でも技術導入契約は継続されていました。
技術は日々進歩しますので、技術導入から数十年近くたった時点でも、技術導入元が次々と開発してゆく新技術を消化し、追いつくのが精一杯の状況でした。
導入した技術を元にして、さらに技術を自主開発する余裕はなかったものと思います。
このような状況の中で、欧米から導入した技術を消化しつつ、日本の高度成長がなされたものと思います。
技術導入の結果としての英語力の必要性
そのような技術導入の経緯から、会社にある設計マニュアルは技術導入元である米国の会社のものそのものであり、当然ながら全部英語です。
それも高さ2メートルのキャビネ二つ分の分量です。
そして、マニュアルの各ページには英語がびっしりとタイプされていました。
また、設計マニュアルだけでなく、大型コンピューターによる技術計算プログラムもすべて英語でした。
プログラムの解説書もインプット項目フォームもすべて英語です。
技術的にわからないことがあれば、英文で米国の会社に問合せ、英文で回答を得る必要がありました。
また、毎年かなりの人が米国の会社に行って、技術会議を持ったりしていました。
従って、会社で技術に携わる人間はすべて、英文の技術マニュアルを理解できることが必須なのでした。
新入社員といえども、これら英文マニュアルを使いこなしながら、仕事をしなければならないのです。
学生時代には、英語なんて会社に入ったらいらないさと思っていたところにこの現実です。
「あれれ! 話が違う!」という感じでした。
といっても、単に自分がそう思い込んでいただけだったのですが。
以上のような事情から、国内向けプラントに携わる人間でも、少なくとも英語を読み、理解し、業務に適用できなければ仕事になりません。
そうできなければ、エンジニアとして失格という状態でした。
海外向けプラントに携わっている人間は、もちろんそれだけでは足りません。
海外の顧客との契約書、技術仕様書、日常のやりとり、会議、提出する図書などはすべて英語であるため、英語を日常の道具として使えなければエンジニアとして失格です。
学校で英語を人並みにしか勉強していなかった私は、入社してしばらくして、とんでもない世界に足を踏み入れたものだと痛感しました。
しかし、日本のプラントメーカーはどこも同じような状況と思われたので、この業界で生きて行くには、技術力とともに英語力をなんとかするしかないと思ったものです。
では、第5回目はこの辺で。
次回をお楽しみにして頂ければ幸いです。